小さなアドバイス集2
目に見えないものを信じる力
それから王子さまは、キツネのところに戻った。
「さようなら」王子さまは言った・・・・・・
「さようなら」キツネがいった。「じゃあ秘密を教えるよ。とてもかんたんなことだ。ものごとはね、心で見なくてはよく見えない。いちばんたいせつなことは、目に見えない」
「いちばんたいせつなことは、目に見えない」忘れないでいるために、王子さまはくり返した。『星の王子さま』 サン=テグジュペリ 河野万里子訳 新潮文庫 p.108
子どもの才能を伸ばそうと思うなら、子どもの中に育ちつつある能力を信じなければなりません。
何事においても、大切なものを育てるには時間がかかります。子どもの中に育ちつつある「目に見えない」能力を信じることができなければ、テストのたびに一喜一憂し、迷走し、子どもに悪影響を与えます。ちょうど、ご飯がちゃんと炊けているかどうか心配で、炊飯器の蓋を何度も開けて確認しご飯を台無しにするように。
特に、目に見える成果を日々求められる仕事をしている大人は、「目に見えるもの」がすべてという思考法に慣らされ、「目に見えないもの」を見る力、精神的感受性が欠けがちです。その結果、テストの点数や成績、宿題の量、勉強時間など、「目に見えるもの」で子どもを測るばかりで、子どもがどれだけ真面目に、誠実に努力したかを感じ取ることができません。子どもの中に育ちつつある能力の存在に気づかず、それを大切に守り、育てることができません。
消しゴム

「受験生は消しゴムを使ってはいけない」と、杓子定規に教える親がいます。しかし、考えもなしに消しゴムの使用を禁止すると、もともと粗雑な性格の子どもの場合、ますます粗雑になるだけです。消すべきところは消し、残すべきところは残すように指導するのが、賢明な親というものです。
消すべきところとは、問題の本質には関わらないが、残しておいたらミスに繋がるような、ささいなミスです。学年により異なりますが、例えば6年生の場合、ささいな計算ミスは、放置しておくとその間違った数値を使ってさらに計算しがちなので、その都度消した方がいいでしょう。ミスを黒く塗りつぶすのは辞めましょう。雑で怠惰な性格を助長しますし、明確な思考の妨げになります。
残すべきところとは、1回目の答案や、問題の本質に関わるようなミスです。そのようなミスは残しておいて、その横に、何を間違ったのか、ポイントなどを色ペンで書き込むといいでしょう。
「そんなことを言っても先生、うちの子どもは消しゴムで消すととても時間がかかり、テストの時間もなくなります!」という親もいるでしょう。しかし、消しゴムで速くきれいに消すこと、消すべきを消し残すべきところを残す判断ができること、そういったことも含めて、すべて子供の学力です。低学年の頃に親がおかしな教え方をしなければ、6年生になれば自然に解決する問題です。焦らず、長くて広い視野を持って、子どものペースで、丁寧に勉強させてあげて下さい。
大切なことは言葉にできない

「漢字の筆順にはちゃんと意味があるから、私は筆順もちゃんと教えたいのに、塾の先生は書き順は入試に出ないからどうでも良いといいます。どう思いますか?」と、ある母親から質問されたことがあります。
皆とは言いませんが、ここに登場するような塾の先生の場合、合否がすべてです。合否という「目に見える」世界しか見ていないので、論理は単純明快です。一方、母親の方は、かけがいのないたった一人の子どもに一生モノの道具を授ける立場にいます。何が大切か直感的に理解しているのですが、それを言葉でうまく説明することはできません。
物事を学ぶのに、細部をゆるがせにせず、丁寧に学ぶのはそれだけで価値があります。先人が残した手順を学ぶのはそれだけで価値があります。こうして、丁寧で、誠実で、従順で謙虚な人間性も養われます。

最も大切なものは、言葉で簡単に説明できるものではありません。言葉で説明しようとすればするほど、核心から遠ざかります。母親が塾の先生や子どもに、筆順の理由や大切さを説明してもかえって逆効果で、本当に大切なもの、伝えたかったものからどんどん遠ざかってしまうでしょう。
子どもは大人よりも直感的に優れています。たとえ言葉で明確に説明できなくても、大切と思うなら、信念を持って子どもに教えるようにして下さい。言葉にしなくても、大切なものはちゃんと伝わります。